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 くらやみ(darkness)


 わたしは、病気びょうきになりました。

 医者いしゃは、わたしいました。

非常ひじょうむずかしい病気びょうきです」


 わたしたずねました。

「それは、もうなおらないということですか?

 もうわたしぬということですか?」


 医者いしゃは、しばらくだまっていました。

 そして、医者いしゃは、おな言葉ことばかえしました。

非常ひじょうむずかしい病気びょうきです」


 わたしは、またたずねました。

「それは、もうなおらないということですか?

 わたし病気びょうきなおくすりいということですか?」


 医者いしゃは、いました。

くすりは、いわけではない」

「それは、くすりがあるということですね!」

くすりは、……いわけではない。しかし……」

「そのくすりをください。わたしきたいんです」

「しかし、副作用ふくさようがあるんだ」

副作用ふくさよう:side effect)

「どんな副作用ふくさようでも、ぬよりは、いいでしょう」

「よくかんがえてみてくれ」


 医者いしゃ説明せつめいしました。

 そのくすりめば病気びょうきなおると。

 きることができると。

 しかし、えなくなると。

 みみこえなくなると。

 からだなにかんじなくなると。

 わたしのまわりが、くらやみになってしまうと。

 わたしは、くらやみのなかで、一人ひとりになってしまうと。

「……それでも、きることはできます。

 しかし、くすりむかどうかは、よくかんがえてみてください」


 わたしは、どうすればよいのか、わかりませんでした。

 わたしは、なやみました。

 わたしは、くるしみました。


 わたしは、こわかったのです。

 わたしは、ぬのがこわかったのです。

 しかし、くらやみのなか一人ひとりつづけるのも、こわかったのです。

 それは、ぬことよりも、こわかったのです。


 わたしは、ふたつのえらばなければなりません。

 そして、それは、一度いちどえらべば、えることができないのです。

 ああ、だれに、そんなことがえらべるでしょう。


 わたしは、このままぬべきなのでしょうか。

 それとも、くすりんで、くら世界せかいで、一人ひとりきてくべきなのでしょうか。

 わたしは、えらぶことができませんでした。


 わたしおもいました。

 こんなことになるなら、なにらずに、病気びょうきんでしまったほうが、らくだった……。

 そうおもっても、なにわりません。


 わたしたすけてください。

 だれか、わたしたすけてください。

 神様かみさまわたしたすけてください。


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