絵の中の女（えの　なかの　おんな）

　男おとこは一枚いちまいの絵えを買かった。

　それは、美うつくしい女おんなの絵えだった。

　絵えの中なかの女おんなは、まるで、本当ほんとうに生いきているようだった。

　とても美うつくしい女おんなだった。

　男おとこは、その女おんなが好すきになった。

　男おとこは、その女おんなに恋こいをした。

　彼かれは、その女おんなに名前なまえをつけた。

　そして、毎日まいにち、その名前なまえを呼よんだ。

　すると、ある日ひ、絵えの中なかの女おんなが返事へんじをした。

　そして、女おんなは、絵えの外そとへ出でて来きた。

　男おとこは言いった。

「あなたのことをとても愛あいしています。

　結婚けっこんしてください」

　女おんなは答こたえた。

「ええ。

　でも、もし、あなたが、一度いちどでも、わたしに、ひどいことをしたら、わたしは絵えの中なかに帰かえります」

　男おとこは言いった。

「わたしは、あなたを愛あいしています。

　わたしは、あなたをとても愛あいしています。

　死しんでも、あなたを愛あいします。

　死しんでも、また、どこかで生うまれ、そして、あなたに、また出合であい、そして、あなたを愛あいします」

　二人ふたりは結婚けっこんした。

　今いまでも、その絵えの中なかに女おんなはいない。

10 Japanese Short Stories JLPT N4/N3 FREE

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