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事故(accident)(ある若い女性の恋の話) わたしは、車の部品を作る工場で働いていました。 彼も、そこで働いていたのです。 わたしは、彼のことが好きでした。 しかし、そのことを彼に言えませんでした。 わたしは、まだ、彼のことを何も知らなかったのです。 わたしは、ただ、彼の働いている姿を見ているだけでした。 わたしは、その時、ぼんやりしていたのでしょう。 (ぼんやりする:absent-minded) わたしは、ある日の夕方、機械の操作を間違えてしまいました。 (操作:operation) 機械の異常な音に気が付いて、人が集まって来ました。 彼も、走って来ました。 彼は、何とかして機械を止めようとしました。 ところが、その時、彼の手が、機械に挟まってしまったのです。 (挟まる:to get caught in …) 彼はひどい怪我をしました。 腕の骨が折れてしまったのです。 彼は、しばらく入院することになりました。 (入院する:to go to hospital)
わたしは、とてもつらい気分でした。 彼に怪我をさせてしまったのです。 わたしは、自分が好きな人に、怪我をさせてしまったのです。 わたしが、悪いのです。 わたしが機械の操作を間違ったから、彼は怪我をしてしまったのです。 それで、彼は入院してしまったのです。 わたしは、仕事が終わると、毎日病院に行きました。 休みの日は、朝から病院に行きました。 わたしは、彼に、何度も謝りました。 しかし、彼は、ほとんど返事をしてくれません。 わたしは思いました。 ……きっと、怒っているのよ…… ……わたしのせいで、ひどい怪我をしたのだから、仕方がない…… ……どうしたら、許してくれるのでしょう…… わたしは、一生懸命、謝りました。 彼は、ときどき、何かを言おうとしました。 が、すぐに黙ってしまいました。 わたしは、泣きそうになりました。 そんなことが、一週間ほど続きました。 ある日、彼は言いました。 彼が初めて、少し話をしてくれたのです。 「明日には、もう退院できそうだ」 (退院する:to leave the hospital) 「うん、よかった」 「そうかな?」 「だって、怪我が治ったんでしょう……。 ……だから、退院できるんでしょう……」 「いや、まだ、治ったわけじゃないんだ。 まだ、動かすと、ひどく痛い」 「ごめんなさい。 わたしのせいで……」 「いや、そうじゃないよ……」 その時、彼は言ったのです。 「僕はね、怪我をして、痛かったけど…… でも、怪我をしてよかった、と思っているんだ。 入院することになったけどね。 でも、そのおかげで、君と毎日、話ができたし……。 僕はね、君と話がしたいって、ずっと、思ってたんだ。 でも、僕は、女性と話すのが苦手だから……。 会社では、何も話ができなかったけど、ここにいれば、君が、毎日、来てくれる。 毎日、話ができる。 だから、何だか、退院するのが、さびしいんだ……」 「……」 「これからも、ずっと、毎日、話がしたいな」 「うん」
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