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Japanese Ghost Stories むじな Faceless Ghost女が、ひとりで、泣いていた。 女が、立ち上がると、その顔には、目も鼻も口も、なかった。 (ひとりで:alone) (泣く:to weep) “きのくに坂”という坂が、東京の赤坂にあります。 坂の横は、深い堀になっています。 (堀:moat) 街灯がなかった時代、この坂を夜歩く人はいませんでした。 (街灯:streetlamp) なぜなら、“むじな”という妖怪がでるからです。 (妖怪:a ghost; a monster; an apparition) その“むじな”を最後に見たのは、ある商人でした。 (商人:merchant) その商人は、もう、三十年前に死にました。 これは、その商人の話です。 *** 商人は、ある晩おそく、きのくに坂を急いで、のぼっていきました。 (急いで:in a hurry) すると、一人の女の子が、堀のそばにしゃがんで、泣いていました。 (しゃがむ:to crouch) 彼女は、きれいな着物を着た、うつくしい女性でした。 (着物:kimono, clothes) 男は、彼女が堀に飛び込むかもしれない、と思って、立ち止まりました。 (飛び込む:to drown oneself) 彼は、親切な男でした。 (親切な:kind) 彼は、彼女を助けようと思ったのです。 「お嬢さん」 と、男は、彼女に近づいて言いました。 (お嬢さん:young lady) (近づく:to approach) 「お嬢さん。 そんなに泣かないでください。 何か困ったことが、あるなら、教えてください。 何か、私に、できることがあれば、何でも、やりますよ」 しかし、女は泣いているだけです。 長い袖で顔を隠して泣いていました。 (袖:sleeve) (隠す:to hide) 「お嬢さん」 と、彼は、やさしく言いました。 (やさしく:gently) 「どうか、どうか、聞いてください。 ここは、若い女の子が、夜、いるような場所ではありません。 お願いですから、泣かないでください。 (お願い:wish, request) 私にできることを教えてください」 すると、彼女は、ゆっくりと立ち上がりました。 しかし、彼に背中を向けたままです。 そして、袖で顔を隠して、まだ泣いていました。 彼は手をそっと女の肩に置いて言いました。 「お嬢さん! お嬢さん! お嬢さん! 聞いてください。少しでいいですから! お嬢さん! お嬢さん!」 すると、彼女は振りかえりました。 (振りかえる:to turn around) そして、袖を下におろしながら、手で顔をなでました。 (なでる:to stroke) すると、そこには、目も鼻も口も、ありませんでした。 彼は、叫びながら逃げました。 (さけぶ:to scream) (逃げる:to run away) *** 彼は、きのくに坂を走って、のぼりました。 彼の前は、暗くて何も見えません。 怖くて、振り返ることもできません。 ただ走りました。 すると、遠くに小さな明かりがありました。 (明かり:a light) ほたるのような、小さな明かりでした。 (ほたる:firefly) 彼は、そこへ向かって走りました。 それは、道側の、そば屋の屋台の明かりでした。 (道側:roadside) (屋台:stand) 彼は、そば屋の足元に座り込んで、叫びました。 (足元:at the feet of) 「ああ! ああ!! ああ!!!」 「おい! どうした?」と、そば屋は、叫びました。 「誰かに、おそわれたのか?」 (おそう:to hurt, to attack) 「いや、おそわれたわけじゃない」 と、彼は息を切らしながら言いました。 「ただ……ああ!ああ!」 (息を切らす:to pant) 「どうした? 何があった?」 「私は見た……女を……女の顔……おそろしい……」 「顔? それは、こんなものだったのか?」 と、そば屋は言いながら、顔をなでました。 すると、そば屋の顔は、卵のようになりました。 そして、同時にあかりが、消えました。 (同時に:simultaneously)
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