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Japanese Ghost Stories 雪女(ゆきおんな) The Woman of the Snow(雪:snow) (1) ある村に、もさくと、みのきちという二人の木こりが住んでいました。 (木こり:woodcutter) もさくは、年を取っていましたが、みのきちは、まだ十八の子供でした。 (年を取っている:old(年を取る:to get old)) 二人は、毎日、村から遠くはなれた森へ、木を切りに行きました。 その森へ行く途中に大きな川がありました。 (途中に:on the way to …) そこには、小さな船が、置いてありました。 川には、何度か橋が作られましたが、洪水が起きると、いつも、壊れてしまったのです。 (洪水:flood) だから、川には橋がありませんでした。 (2) あるとても寒い晩、もさくと、みのきちが家に帰る途中のことです。 はげしい吹雪に、なりました。 (吹雪:snowstorm) 川に、着きましたが、船頭は、もう帰って、いませんでした。 (船頭:boatman) 船は、川の向こう側に置いたままです。 吹雪の中で、川を泳ぐことはできません。 それで、二人は、船頭が使っている小屋に行きました。 (小屋:hut) 小さな小屋でした。 小屋に火をおこす場所はありません。 (火をおこす:to make a fire) 窓もありません。 もさくと、みのきちは、戸をしっかり閉めました。 それから、横になりました。 (横になる:to lie down) 初めは、それほど寒いと思いませんでした。 それに、吹雪は、すぐに止むと思っていました。 (止む:to stop) (3) 年を取った、もさくは、すぐに眠りました。 (眠る:to fall asleep) しかし、若い、みのきちは、眠れません。 長い間、外の風や、雪の音を聞いていました。 川は、ごうごうと鳴っています。 (鳴る:to sound) 小屋は、はげしく、ゆれました。 (ゆれる:to sway) それは、とても恐ろしい吹雪でした。 空気は少しずつ、冷たくなります。 みのきちは、ふるえていました。 (ふるえる:to shiver) それでも、みのきちも、とうとう眠ってしまいました。 (4) みのきちが、ふと、目をさますと、小屋の戸が開いていました。 そして雪の明かりで、部屋のなかに女が見えました。 (明かり:light) 彼女は白い着物を着ていました。 (着物:kimono, clothes) 女は、もさくに近づき、彼に息をふきかけました。 (息:breath) (ふきかける:to blow) 彼女の息は、白く輝きました。 (輝く:to glitter) その時、彼女は、みのきちの方を向きました。 (向く:to turn) そして、彼に近づきました。 (近づく:to approach; to come near) 彼は叫ぼうとしました。 (叫ぶ:to cry) が、声が出ません。 女は、少しずつ彼に近づいて来ます。 そして、彼女の顔が彼にふれそうになりました。 (ふれる:to touch) 彼は怖かったのですが、それでも、彼女が、きれいだ、と思いました。 しばらく、彼女は彼を見ていました。 それから、彼女は、ほほえみ、そして、ささやきました。 (ほほえむ:to smile) (ささやく:to whisper) 「私は、あなたを殺そう、と思いました。 (殺す:to kill) あの人と同じように、あなたを殺そう、と思いました。 でも、あなたが、かわいそう。 (かわいそう:to feel pity) あなたは若い。 それに、あなたは、かわいい。 みのきちさん、私は、あなたを殺しません。 でも、もし、あなたが、今夜見たことを誰かに言ったら……私は、あなたを殺します。 もし、あなたが、誰かに言ったら、私には、それが、わかります。 たとえ、それが、あなたのお母さんでも、私には、それが、わかります。 そして、あなたを殺します。 今、私が言ったことを忘れないでください」 (忘れる:to forget) (5) 彼女はそう言うと、振り返り、外へ、出て行きました。 (振り返る:to turn around) その時、彼は、自分が動けることに気が付きました。 (気が付く:to notice, to find) 彼は、すぐに起き上がって、外を見ました。 女は、もう、見えませんでした。 みのきちは戸をしっかりと閉めました。 彼は、風で戸が開いたのかもしれない、と、思いました。 あるいは、夢を見ていたのかもしれない、と思いました。 (あるいは:or) (夢を見る:to dream) 雪の明かりを、白い女の姿と見間違えたのかもしれない、とも思いました。 (姿:figure) (見間違える:to mistake) しかし、よくわかりませんでした。 彼は、もさくを呼びました。 ところが、もさくは、返事をしません。 彼は怖くなりました。 彼は、暗い小屋の中で、手をのばして、もさくの顔に、ふれました。 (手をのばす:to put out his hands) それは、氷でした。 (氷:ice) もさくは、凍って死んでいました。…… (凍る:to freeze) (6) 朝になると、吹雪は止みました。 やがて、船頭が小屋に戻って来ました。 (戻って来る:to return) そして、二人を見つけました。 みのきちは、長い間、起き上がることができませんでした。 もさくの死んだことが、とても怖かったのです。 しかし、彼は、小屋で女を見たことについては、何も言いませんでした。 そして、また、元気になると、すぐに、仕事を始めました。 毎朝ひとりで森へ行き、夕方には、切った木をたくさん持って帰って来ました。 (7) 次の年の冬の、ある晩のことです。 みのきちは、家に帰る途中で、女に会いました。 彼女は、一人で旅をしていました。 美しい女性でした。 二人は、並んで歩きながら、話をしました。 彼女は、名前を「お雪」と言いました。 お雪は、自分のことを、みのきちに話しました。 最近、両親がなくなったこと…… (最近:lately) (なくなる:to die) これから江戸へ行くこと…… (江戸:Tokyo) そこで、仕事をさがすこと…… そんなことを話しました。 みのきちは、すぐに、その女が好きになりました。 彼女は、見れば見るほど、きれいだったのです。 彼は、彼女に、結婚しているのか、と尋ねました。 彼女は、ほほえみながら「いいえ」と答えました。 それから、今度は彼女が、みのきちに、結婚しているのか、と尋ねました。 みのきちは言いました。 「結婚のことは、まだ若いので、考えたことがない。 家族は母がいるだけだ」 こんな話のあと、彼らは、しばらく、だまって歩きました。 それでも、村に着くまでに、二人は互いのことが、とても、好きになっていました。 (互い:each other) みのきちは、お雪に、しばらく自分の家で休んで行くように言いました。 彼女は、少し、ためらっていましたが、彼と一緒に、彼の家へ行くことにしました。 (ためらう:to hesitate) みのきちの母は、お雪を、温かく迎えました。 (迎える:to welcome) お雪のために、温かい食事を用意しました。 みのきちの母も、すぐに、お雪が、好きになりました。 お雪に、しばらく、家に、いるように勧めます。 (勧める:to recommend) お雪は、もう、江戸へは行きませんでした。 彼女は、みのきちの家に残り、彼と、結婚しました。 (残る:to remain) (8) みのきちの母は、五年ほどの後に亡くなりました。 みのきちは、お雪と暮らしました。 お雪には、男の子、女の子、十人の子供が、生まれました。 みんな、色がとても白く、かわいい子供でした。 そして、お雪は、十人の子供の母となったあとでも、若く美しかったのです。 初めて村へ来た日と同じように、若く美しかったのです。 (9) ある晩、子供らが寝たあとで、お雪は、行灯のあかりで、針仕事をしていました。 (行灯:paper lamp) (針仕事:sewing(針:needle)) みのきちは、彼女を見ながら言いました。 「お前が、そうして、あかりの中で、針仕事をしているのを見ると、私が十八の時の不思議なことを思い出す。 (思い出す:to remember) 私は、その時、今のお前のように、きれいな、そして、色の白い人を見た。 その女は、お前に、そっくりだった……」 (そっくり:to look exactly like …) お雪は、答えました。 「その人の話を教えて。 その人に、どこで会ったの?」 そこで、みのきちは、恐ろしい吹雪の夜のことを彼女に、話しました。 白い女のこと…… もさくが、死んだこと…… 彼は、言いました。 「お前のように、きれいな人を、見たのは、その時だけだ。 もちろん、それは、人ではなかった。 私は、その女が怖かった。 とても怖かった。…… しかし、その女は、とても白かった。…… 私が見たのは、夢だったのか。…… わからない。…… それとも、雪女だったのか……」 (雪女:the Woman of the Snow) (10) お雪は、立ちあがり、みのきちに近づきました。 彼女は、彼に向かって叫びました。 「それは、私、私…… ……それは、私。 ……それは雪。 ……そして、その時、私は、あなたに言ったの。…… ……もし、あなたが、そのことを、言ったら、私は、あなたを、殺す、と。 もし、そこで、眠っている子供たちが、いなかったら、今すぐ、あなたを殺したのに…… でも、もう、できない。 あなたは、子供たちを大事に、大事に、してください。 (大事にする:to take good care) もし子供たちに何かあったら、そのときは私は、あなたを……」 (11) 彼女の声は、だんだん、小さくなりました。 彼女は、輝く白い煙となって天井へ、上がっていきました。 (天井:ceiling) そして、ふるえながら、外へ出て行きました。 (ふるえる:to shudder) 彼女は、二度と姿を現しませんでした。 (姿を現す:to appear)
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